研究概要 |
本研究の目的に沿った、さまざまな、1,1-ジチオレート配位子の合成を行い、新規錯体を含む、19種のcis-ジオキソモリブデン(VI)錯体の合成を行った。これらの錯体は後続反応を含む電気化学的1電子還元を受けることがわかった。また、これらの錯体の1電子還元過程の酸化還元電位は、1,1-ジチオレート配位子上の置換基の性質によって、広い範囲で変化することがわかった。特に置換基としてフェニル基を導入した場合、酸化還元電位は特徴的な変化を示したので、そのことに対する考察を行った。さらに、これらの錯体とPPh_3との酸素原子移動反応の速度定数は、錯体の1電子還元過程の酸化還元電位と良い相関があることが明確となった。合成した錯体の典型的なものの、構造をX-線回折によって、決定した。M=O結合の強いトランス効果が確認され、配位子の結合様式が、その効果によって、選択的に決定されるであろうと考えられた。そして、それが、酸化還元電位や速度定数の変化に重要な影響を及ぼすことを結論した。その他、各種の物性測定なども行った。溶液中でのMo=Oの伸縮振動は1,1-ジチオレート配位子の性質によってある程度影響は受けるが、伸縮振動数の変化に、一定の限界があることがわかった。1,1-ジチオレート部分の^<13>CNMRの化学シフトは、錯体の配位子となっているときの方が、そうでないときに比べて、高磁場であることがわかった。以上の成果については論文としてまとめ、学術雑誌に投稿の準備を進めている。
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