チオレート配位子(RS^-)を二分子配位した八面体型単核は、配位チオラト基の高い求核性により他の金属イオンと結合し、様々なタイプの硫黄架橋多核錯体を形成すると考えられる。しかしながら、このような単核ユニットを構成単位とする多核錯体については、その単核錯体の合成の困難さのため、これまで研究がほとんど進行していない。先に、本研究者は、2つのcis(S)-[Co(aet)_2(en)]^+]ユニットから成るCo^<II>Ni^<II>Co^<III>硫黄架橋三核錯体([Ni{Co(aet)_2(en)}_2]Cl_4)が、[CoCl_2(en)_2]Clと[Ni(aet)_2]とのキレート転位反応により、容易に合成されることを見いだした。この三核錯体中のNi^<II>を他の金属イオンと置換することができるならば、cis(S)-[Co(aet)_2(en)]^+ユニットを構成単位とする様々な硫黄架橋多核錯体の開発につながると考えられる。そこで、今回、硫黄原子との親和性が比較的大きく、Ni^<II>と同様、四配位構造をとりやすいCd^<II>との置換反応をおこなった。その結果、得られた錯体は、対応するCo^<III>Cd^<II>Co^<III>三核錯体ではなく、Cd^<II>が1つのcis(S)-[Co(aet)_2(en)]^+ユニットからの2つの硫黄原子と3つの塩素原子により三方両錐型に配位された、無電荷のCo^<III>Cd^<II>二核錯体([CdCl_3{Co(aet)_2(en)}])であることが判明した。さらに、この錯体を水に溶かし過剰の硝酸ナトリウムで処理したところ、cis(S)-[Co(aet)_2(en)]^+ユニットが四分子集合した七価のCo^<III>_4Cd^<II>_2六核錯体([Cd_2{Co(aet)_2(en)}_4]^<7+>)が生成した。この六核錯体中においても、Cd^<II>は五配位三方両錐構造をとっており、cis(S)-[Co(aet)_2(en)]^+ユニットの配位がCd^<II>に対してこのような特異な配位構造をもたらしたと考えられる。このCo^<III>_4Cd^<II>X_2六核錯体の水溶液に塩化ナトリウムを加えたところ、もとの無電荷の二核錯体が生成した。従って、水溶液中の塩化物イオンの濃度を調整することにより、多核構造を制御することが可能であることも明らかとなった。
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