本研究の目的は多元金属錯体系を非共有結合を用いて高次に組み立てる化学的構築法により、生物機能発現への道を開くことにある.このため、各種白金錯体と核酸構成成分であるヌクレオチド、ヌクレオシドあるいはNAD間の弱い相互作用の特異性、形成されるアダクトの構造を溶液化学的に追究した。まず、これらの物質間の溶液平衡をカロリメトリーを用いて明らかにした。1:1錯体のみならず、1:2錯体の形成が示され、多元錯体が構築されることが明確に示された.一連の核酸構成成分とアダクトの構造は核酸塩基が白金配位芳香環を挟むきわめて特異的な形をとっていることが、白金195NMRから示された。白金195NMRシフトとアダクトを作る能力(エンタルピー項)がパラレルな関係があったことから、このような特異的なアダクトの構造が金属イオンによるものであることが初めて明らかにされた.また、差吸収スペクトルから明らかにされた電荷移動吸収相互作用の強さも白金195NMRシフト、アダクトのエンタルピー項と比例関係があったことから、相互作用の原動力は芳香環間の疎水性相互作用に加えて、金属イオンによって誘起されたHOMO-LUMO間の電荷移動吸収にあり、この電荷移動吸収が金属錯体に特異的かつ強力なスタッキング相互作用をもたらしていることが初めて明るみにされた.アダクト形成に寄与する相互作用として考えられた静電的相互作用はスタッキング相互作用を強める形で働いており、相互作用の組み合わせによる特異性発現機構の解明にも成功した. 以上、生物機能賦与の基礎となる(1)特異的な弱い相互作用を明かにし、(2)多元高次系を構築し、(3)金属イオンの特性を明らかにした.
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