研究概要 |
負の粒子(π^-、μ^-、...)は物質中で静止すると、その原子・分子に捕獲されエキゾチックアトムを形成する。この捕獲過程には物質の構造や電子状態(化学状態)が関与しているといわれており、実際、物質への捕獲現象で種々の化学的効果が現れる。中でも、水素に捕獲され生成されるミュオン水素原子やパイ中間子水素原子(π^-P)は、物質中で擬中性子として奇妙な振る舞い(π^-やμ^-が他の原子に転移する)をする興味ある対象であり、中間子原子・分子現象の理解には重要なキ-プロセスである。 我々のグループでは、これまでπ^-捕獲率やパイオニックX線強度パターン等を種々の凝縮系の分子について系統的に測定し、化学効果の観点からそのメカニズムの解明に寄与してきた[ex. Phys. Rev. A, 53, 130('96); Phys. Rev. Lett, 76, 2460('96)]。本研究では、次のステップとして、π^-転移過程におる化学構造やπ^-pの原子状態の影響を、分子間相互作用が無視できる気相系で明確に調べることにより、π^-pの遊離・生成から転移・崩壊の過程を含めた捕獲過程全体を理解することを目的とした。 実験では高エネルギー物理学研究所12GeV陽子シンクロトロンで行った。気体試料からのパイオニックX線を測定するために、ベリリウム製のカウンター内蔵高圧ガスチェンバーを開発した。チェンバーのテスト、測定システムの立ち上げはすでに完了し、現在、順調に測定実験を進めている。分子構造の観点からSF_6/C_2H_6/C_2H_4と水素との混合系について、励起状態の異なるπ^-pからの転移過程の検討のために希ガスとH_2及びCH_4系についてパイオニックX線とπ^0(→2γ)[最終的な水素への捕獲を示す]の同時測定を行う計画である。すでに、SF_6+H_2系では分子構造の転移過程への影響が、Ar+H_2系では転移過程によるパイオニックX線強度の変化が確認されている。測定は今夏までに終了の予定で、上で述べたような捕獲過程全体を理解するために重要なデータが得られると期待できる。
|