チオフェノール基を修飾したトリアザシクロノナンの六座配位子を用いて3個の金属イオンをチオフェノールで架橋した様々な種類のFace-sharing直線型三核錯体を合成し、これらの電子状態や磁気的な性質を解明することを目的として研究を行なった。 平成7年度は、両端にルテニウムイオンを、中心に他の金属イオンを含む新しいタイプの直線型異核三核ルテニウム錯体の合成法を確立した。この方法は、始めに単核のルテニウム錯体を合成し、これに更に金属イオンを反応させるものである。実際に、Ru(III)Ni-(II)Ru(III)およびRu(III)Co(II)Ru(III)錯体を合成した。Ru(III)Co(II)Ru(III)錯体の場合には、さらに1電子酸化を行い、Ru(III)Co(III)Ru(III)錯体を合成し、3個の金属イオン間の相互作用を明らかにするために磁性測定をおこなった。この結果、Ru(III)Co(III)Ru(III)錯体は常温付近でμ_<eff>=3.0(S_t=1)、すなわち不対電子2個分に相当する磁性を示した。つまり、この錯体は4d^5(low-spin)-3d^6(low-spin)-4d^5(low-spin)の電子状態にあり、しかも金属間結合の存在は考えられないため、両端のRu(III)の不対電子は相互作用していないと考えられる。得られた結果は、4d^5(low-spin)-4d^6(low-spin)-4d^5(low-spin)の等電子構造である三核Ru(III)Ru(II)Ru(III)錯体が反磁性で、金属結合により2個の不対電子が強く相互作用していることと全く対照的であり、非常に興味深い。 上記の成果は、平成7年10月福岡で開催された錯体化学若手の会(錯体化学討論会)に講師として招聘された際に報告した。現在、ルテニウムイオン間相互作用を解明すべくRu(III)Ru(III)Ru(III)錯体を合成し、その構造と電子状態を研究中である。
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