有機強磁性体の発見において、基本となった物質はガルビノキシルとp-ニトロフェニルニトロニルニトロキシド(p-NPNN)であるが、これらの物質の結晶にはいずれも多形がある。またその後、磁性と結晶構造の関係を調べる過程で、後者の基本骨格となるニトロニルニトロキシド(HNN)も研究したが、これにも二種の多形があり、異なる磁性を示すことが明らかになった。これらは、磁性発現の機構を解明する上でも重要であるが、同時に結晶構造の決定因子を調べる上でも格好な研究材料を提供していると考えられる。ガルビノキシルは、高温相で強磁性相互作用を示すが、85K以下の低温相では反強磁性相互作用を示すようになる。その原因を探る目的では、低温の結晶構造解析が重要になる。今年度はその努力を勧め10Kでのx線回析パターンは得られているが、冷却する段階で結晶が壊れるために、余計な回析点が含まれるので、その解析が大変困難で今年度にはまだ完成していない。一方、この結晶に5-6kbarの圧力を加えて磁性を調べると、相転移が抑制され、低温まで強磁性相互作用が維持されることが判明した。従来は不純物を混入して相転移を抑えて強磁性相互作用の研究をしていたが、この実験によって純ガルビノキシルにおいても研究を進めることができるようになった。HNNのα相では、ac面内にシート構造が発達することが知られているが、これにはC(sp^3)-H・・・O-Nの水素結合で生じた二量体が、C(sp^2)-H・・・O-Nの水素結合を通して繋がるのが、最も重要な因子になっていることが理論的な計算によって明らかになった。このこととβ相の結晶との関係について、現在研究を進めている。p-NPNNについては、今年度は手が回らなかった。
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