研究概要 |
トリクロルアセトアミド(TCAA)のIII相(X線回折(300K)、(90,300,343K))、II相(単結晶中性子線回折、357K)、I相(粉末中性子回折、370K)の結晶構造が解析された。(1)空間群は全てP21である、(2)III相では、独立な2個のトリクロルメチル基の一方は、C-C軸回りの小角回転で生じる2個所の安定位置を占め、高温相ではその平均位置を占める、(3)一つのアミノ基の構造が温度に依存する、(4)TCAA(III)と同形のトリブロモアセトアミドのIII相にも類似した2サイト構造があることが明らかになった。TCAAのアミノ基の関与する赤外スペクトル(N-H伸縮振動、NH2面外変角振動)の温度依存性の精密な測定より、一部のバンドの波数が、III相で顕著な温度依存性を示し、転移点近傍で明瞭な連続的シフトを示すことが分かった。これらの事実から、アミノ基の構造変化とトリクロルメチル基の2サイト配置の連動がTCAAの強誘電性転移の原因と考える転移機構が得られた。 2-クロロ-2,2-ジブロモ-アセトアミド(CDBAA),2-ブロモ-2,2-ジクロロ-アセトアミド(BDCAA)はTCAAに類似した相転移を起こす。結晶構造決定より、両者の構造(互いに同形)はTCAAと同形ではないが、TCAAの構造に極めて類似していることを確認した。両者の赤外スペクトルとその温度依存性はTCAAのものに非常に類似し、転移に伴う誘電性質の変化の絶対値は小さいが、TCAAと同様の転移機構が働くと推定された。 この研究は、有機化合物に特有の内部回転の自由度と分子構造変化に基づく、純分子性結晶の強誘電性転移機構の普遍的可能性を示した。
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