1.弾性線維蛋白質-水系の液-液2相分離:臨界特性の検討 弾性線維蛋白質エラスチンの特徴である温度依存性コアセルベーションは、下部臨界共溶温度型液-液2相分離現象として捉えられる。ウシ項靭帯由来α-エラスチン-水系の臨界点は、濃度0.11mg/ml、温度21.5°C付近である事が、光散乱測定により確認された。相分離初期過程に於て、臨界点近傍及び充分に離れた領域での分子集合特性を検討した。 2.剪断応力と弾性線維蛋白質-水系の液-液2相分離 コーン・プレート型回転粘度計を用い、ウシ項靭帯由来α-エラスチン-水系のコアセルベーションを検討した。温度上昇と共に低下する粘度は、相分離温度で屈曲点を示した。還元粘度は、臨界点近傍では温度と共に増加して相分離に至るのに対して、臨界点から離れると共に温度依存性が低下した。この結果は、光散乱測定で求めたα-エラスチン集合体の流体力学的半径が、臨界点近傍では急激に増加して相分離に至るのに対し、臨界点から充分に離れた点では相分離に伴い減少する傾向があるとの結果と良く対応している。回転粘度計を用いた測定で求められる相分離温度、即ち2相共存温度は光散乱測定による温度に比して高温側の値となっている。粘度計の回転数を下げると相分離温度は低下する事から、剪断応力場中では弾性線維蛋白質-水系の液-液2相分離は抑制される事が示唆される。 3.粘弾性位相差顕微鏡:透明コーン・プレート型回転粘度計との組合わせ アクリル樹脂製の角度0.8度の透明コーンを試作した。温度制御は、顕微鏡ステージ上の2枚の薄板ガラス間隙に恒温水を循環させ、その上部に透明コーンを備えた回転粘度計を設置する。 4.今後の研究計画 粘弾性位相差顕微鏡を用い、流動誘起相分離現象としての弾性線維蛋白質-水系の相分離を検討する。実際に目にする事の出来ない細胞外空間でのエラスチン前駆体の自己集合組織化に対応する現象を再現する。
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