研究概要 |
HOPGグラファイト、MoS2基板上に分子線蒸着して作製した有機半導体BTQBTや、ナフタセン配向超薄膜における角度分解紫外光電子スペクトル(ARUPS)の測定と計算シミュレーションを通して、有機分子薄膜における光電子の実効的な散乱過程についての重要な知見を得た。これに基づいて,ARUPSの解析プログラム(IAC31)を開発した。本プログラムによって、以下の解析レベルでスペクトルシミュレーションを行うことができる。1.光電子の自己散乱(self-scattering)を考慮した独立原子近似レベル、2.光電子の1回散乱(single-scattering)レベル、3.脱出深さ(escape depth)を古典的な光電子減衰として考慮したレベル。 これまでの研究から、有機分子薄膜のような軽元素から構成される固体では、最近接分子の原子による光電子の1回散乱と固体表面までの脱出深さを考慮することで、実測スペクトルを非常によく再現することが分かった。現時点で可能なスペクトルシミュレーションの種類は、1.光電子強度の放出角(θ,φ)依存性、2.価電子バンド全体の分子軌道(δ,π)の光電子強度、3.ランダム配向系での光電子強度、4.光電子強度の励起エネルギー依存性、である。 我々が開発している本プログラムは、国内外で唯一、有機分子薄膜のARUPSを定量的に計算できるものである。今後は、光電子の多重散乱(multiple-scattering)をプログラムに取り込み解析精度をさらに高めるとともに、2次元表示型光電子検出器の使用に対応した計算を検討してる。
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