研究概要 |
本研究は、ナノメータースケールで機能しうる分子素子の実現のため、中性状態でエネルギーギャップがほぼ0eVであり、かつ電子構造の外的制御が可能であるという特性を有する有機真性伝導高分子の創出を目指すものである。昨年度までは、低エネルギーギャップ型分子である非古典的チオフェン[Q]と各種ヘテロ芳香環[Ar]を構成要素とする混合型トリマ-[Ar-Q-Ar]とその電解重合体[Ar-Q-Ar]_nについて検討を行ってきたが、本年度では、これらの特性を分子鎖の構造を正確に制御した高次オリゴマーにおいて実現することを目標とした。主な成果を以下に示す。 i)昨年度見いだした新規合成ルートを進展させ、新たに[Ar-Q-Ar-Ar-Q-Ar],[Ar-Ar-Q-Ar-Ar],[Ar-Q-Q-Ar],[Ar-Ar'-Ar-Q-Ar-Ar'-Ar]型の低エネルギーギャップ高次オリゴマーの選択的合成法を確立した。その構造-物性相関の理論的・実験的検討から、[Ar-Q-Ar]_4程度の高次オリゴマーにおいて、室温での伝導キャリアーの熱的発生が可能となることが示唆され、現在その合成法を開発している。今後、分子素子への伝導キャリアーの注入が、従来まで想定されていた空間電荷制限電流に基ずくものよりも小さな電位で可能なことを実験的に証明したい。 ii)ナノスケール分子ワイヤー実現のためには、周囲の分子ワイヤーとの絶縁性の確保が重要である。この目的のための手法としてπ共役主鎖を嵩高い置換基でカバーすることが考えられるが、このタイプの分子修飾は、π共役主鎖の有効共役長を低下させるという致命的欠点を持っていた。しかしながら、今回、置換基の構造を主鎖構造に立体的にフィットするよう設計した結果、絶縁性と主鎖の有効π共役長の保持の両立が可能であることを始めて実験的に明らかにした。
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