4-位にバルキーなアシル基を有するアシルピラゾロン類、R1、R2、R3に置換基を導入したβ-ジケトン類(R1COCHR2COR3)を合成した。abinitio法、半経験的な分子軌道法により構造を計算したところ、アシルピラゾロン類では4-位のアシル基がかさ高いほど酸素間距離は小さくなった。またR2に置換基を有するβ-ジケトンは無置換のものに比べてやはり酸素間距離が小さかった。このことは分子内水素結合に注目してIR、^1H-、^<13>C-NMRスペクトルによっても裏付けられた。これらの配位子の酸解離定数を測定したところ、酸素間距離が小さいほど、即ち分子内水素結合が強いほど酸として弱いことが分かった。希土類金属イオンの抽出では、酸素間距離の小さな配位子では酸として弱いため、抽出性は悪かったが、金属イオン相互の分離性は優れていた。 β-ジケトンのα位にアルキル基、ハロゲン基を導入するとケト型の比率が大きくなり、抽出試薬としての使用が制限されるが、フェニル基ではむしろエノール型の比率が大きくなる。acetylacetone、benzoylacetoneのα位にフェニル基を導入したα-phenylacetylacetone(PhAA)、α-phenylbenzoylacetone(PhBA)は、CDCl_3中で定量的にエノール型で存在することが^1H-NMRにより確かめられた。IIIB族のAlはPhAA、PhBAにより容易にベンゼンへ抽出されるが、Inはほとんど抽出されなかった。Al、Inのβ-ジケトン錯体の酸素間距離は約2.7、2.9Åであり、In錯体の酸素間距離は最も長いものに属する。PhAA、PhBAはα位にPh基を有し、そのように酸素間を広げるのに大きなエネルギーを要するために、錯体を生成しにくいと考えられる。一般にAlの方がイオン半径が小さいため、Al>Inの順に抽出されるが、かさ高い末端基を持つリガンドではIn>Alの順になる。これはAlのイオン半径が非常に小さく、かさ高い末端基を持つリガンドでは錯体内での配位子相互作用が大きくなり、錯体の安定度を低下させるためであろう。
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