本研究は、ミトコンドリアの複製の制御機構として、ショウジョウバエのmtDNAの選択的伝達の温度依存性の機構を明らかにすることを目的とし、これに関与する核遺伝子の同定、およびmtDNAの領域の特定を試みたものである。得られた成果は以下の通りである。 (1)核遺伝子について、D.melanogasterの染色体置換系統を確立してヘテロプラズミ-系統を作成し、選択的伝達に対するX、第2、第3染色体の効果を調べた。その結果、いずれの染色体にも温度依存性に関与する遺伝子が存在することが示され、当初の予想とは異なり、数多くの遺伝子が関与していることが示唆された。これらの遺伝子を同定するため、Pエレメント挿入系統の作成を進めているが、さらに新たな戦力が必要であると思われる。 (2)in vitroでmtDNA複製を再現することにより、mtDNA伝達の温度依存性を直接調べることを試みた。核遺伝子の同定のためにも、この方法は必要であると考えられる。文献に基づいて、D.melanogasterの受精卵数gから得た粗抽出液を用いて、DNA合成の活性を調べたが、充分な活性を得るには至らなかった。少量の卵からのタンパク質の抽出法や、感度の良いDNA合成活性の測定などを、さらに検討していきたいと考えている。 (3)mtDNAの複製起点を含むA+T-rich領域内の2つの領域について、mtDNA伝達の実験に用いたD.simulansとD.maritianaの計3系統について、合計約3kbの塩基配列を決定した。これら2種のA+T-rich領域についてははじめての報告であり、近縁種との詳細な比較解析を行った。伝達の温度依存性に関しては、調べた範囲では関与する領域を特定することはできなかったため、さらに他の領域についても塩基配列の決定を進める予定である。
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