生物の適応進化を分子レベルで解明するためには、重複遺伝子群に起こっている遺伝的変化を調べ、遺伝子の機能的分化および発現調節の分化が起こる様子、重複で生じた遺伝子が集団中に広がっていくメカニズムを調べることが重要だと考えられる。そこで本研究は、ショウジョウバエの重複遺伝子群の中で、高度に機能が分化しているシトクロムP-450遺伝子群について、次のような解析をおこなっている。(1)ショウジョウバエ近縁種における遺伝子群の構造遺伝子、発現調節領域および同一種内における遺伝子メンバー間に遺伝的分化や変異がどのくらいみられるか。(2)遺伝子群全体の構成、遺伝子の配置やコピー数等にどのような遺伝的変化がどのくらいあるか。(3)遺伝子群のメンバーの発現調節について遺伝的に分化した違いがどのくらいみられるか。遺伝的な分化がある場合は分化の遺伝情報はどういうところにあるのか。(4)観察された遺伝的違いと個体の適応度にはどのような関係があるか。 本年度は、近縁種における遺伝的分化を調べるため、シトクロムP-450遺伝子のCYP6A2をキイロショウジョウバエよりすでにクローン化し、他のショウジョウバエ近縁種よりCYP6A2をクローニングするためのPCRの条件を現在検討している。ショジョウバエ近縁種のゲノムDNAよりPCR法を用いてシトクロムP-450遺伝子を増幅し、クローニングして塩基配列を決定し、遺伝子の構造および種間の遺伝的違いを解析する。遺伝子群全体の構成については、ショウジョウバエのゲノムライブラリーより、シトクロムP-450遺伝子に相同な領域を持つクローンを多数クローニングして解析する計画である。遺伝子のコピーはいくつぐらいあるのか、それぞれの遺伝子の配置はどうなっているのか、これらの遺伝子コピー間にどのような違いがみられ、機能的な分化がどのくらいみられるのか、遺伝子の配置やコピー数に種間で何らかの変化があるかどうかを詳しく調べる。ラムダファージのベクターでは一つのクローンで解析できる範囲が限られるので、より広範に遺伝子群を解析できるP1ファージの系を使って解析することを試みている。現在までに、キイロショウジョウバエのP1ライブラリーより、シトクロムP-450遺伝子群に相同な領域を持つP1クローンが得られたので、これらのクローンについて、遺伝子の配置、制限酵素地図、塩基配列等をさらに詳しく解析している。シトクロムP-450遺伝子群の各遺伝子の発現調節も近縁種間で比較して、どのくらい分化しているかを調べ、発現調節の分化はDNA上のどういう変化で起きているのかをDNA塩基配列の違い等から推測する予定である。
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