大腸菌染色体の複製開始は複製起点oriCにおけるRNAポリメラーゼによる転写を必要とする。複製起点の転写による活性化の機構を知るために、この過程での決損のために複製の開始ができないと考えられるdnaR変異株の特性を解析した。dnaR温度感受性変異株は、RNAポリメラーゼのベータサブユニットをコードするrpoB遺伝子に起きた特定のリファンピシン耐性変異よって温度耐性となる。更に、この変異株のDNA合成における温度感受性はRNAポリメラーゼにリファンピシン(Rif)が作用することによって解除されることがわかった。Rif存在下のDNA合成は、複製開始のイニシエーターとして働くdnaA遺伝子の機能に依存し、oriCから開始してterCと半保存的に進む。Rifによる誘発DNA合成(RIR)の開始は高温での蛋白質合成に依存し、その量によってRIRの開始頻度が決まる。一旦形成されたRIRポテンシャルは高温で安定であり、蓄積したポテンシャルのRifによる発現はoriCからの同調的な複製の開始を誘起する。RifはRNAポリメラーゼのベータサブユニットに結合して転写の開始を阻害するが、転写中に結合した酵素は転写を継続でき、しかも終結点を越えて転写することが知られている。RIRはRNA合成を殆ど抑えない低濃度のRifによっても誘起されるので、RIRはRifの結合によって転写活性を失わない特定のRNAポリメラーゼ分子による、おそらくはoriCあるいはその近傍でのread-through転写に起因すると考えられる。RifがdnaR機能の欠損による複製開始の障害を解除し得ることは、複製開始におけるRNAポリメラーゼによる転写がdnaR産物によって制御されていることを示唆する。
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