研究概要 |
まず,アズマモグラの孤立個体群のうちで最大のものと予想されていた紀伊半島南部の個体群においては,半島西部では和歌山県広川上流および白馬山脈を越えた御坊側(南側)一帯に分布し,それは海岸に沿って東部地区の尾鷲市にまで達している.このほか香川県大滝山,小豆島,徳島県剣山等のアズマモグラ遺存個体群,越後平野のサドモグラ個体群の一部の地域における詳しい分布境界等についても調査を行った.また,これらの過程で採集したモグラ標本についてmtDNAの抽出,分析を実した.小型で劣勢種アズマモグラ遺存個体群の維持機構については地形や土壌環境による効果が大きく,(1)低地の場合、分布周辺の境界は岩盤が多いか,土壌の浅い山稜によって囲まれることによって,優勢種コウベモグラの侵入が妨げられていること(紀伊半島,小豆島),(2)あるいは山地上部のものでは(大滝山,剣山,小豆島の一部),同じく土壌条件が悪く,コウベモグラの侵入が妨げられることによって維持されている.しかし,小豆島のきわめて狭い孤立生息地の一部は人為的改変により最も危機的状況にある.越後平野のサドモグラの退行についてはアズマモグラとの種間関係に加えて,日本の高度経済生長期以後徹底的に行われた大規模な土木工事,すなわち農地基盤整備事業による農地環境の大改変がきわめて大きな影響をもたらしているらしいことが明らかになってきた.この大改変が大型種サドモグラには負の効果を,小型種アズマモグラには正の効果をもたらし,前者の退行に拍車をかけていることが明らかとなった.mtDNAのCOI領域の分析から,紀伊半島個体群は裏日本の富山,石川個体群と1群を作り,また剣山,小豆島個体群は1群を形成しそれぞれ他地域のものと異なったグループを作ることが明らかになった.
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