研究概要 |
本研究により以下の成果が得られた。 1)雄間精子競争の前提となる多数回交尾を確認方法として、CAP-PCR DNA指紋法が適している。これは、ごく微量のDNAで推定できるためトフシアリやヒメアリのように非常に小型のアリでも1個体について数回の確認分析が出来ること、再現性が高く、信頼性の高い結果が得られること、分析が比較的容易であることなどによる。 2)この方法を用いて多くのアリの雌の交尾回数を推定したところ、当初の期待に反してカドフシアリ、シワクシケアリ、Cyphomyrcmx,Myricocriptaなどほとんどのアリ類で1回交尾であり、多数回交尾は巨大なコロニーをつくるハキリアリなどごくわずかであった。 3)恐らくこのためと思われるが、多数のアリの精子を観察したにもかかわらず、異常精子など精子間競争の証拠となるものは全く発見できなかった。 4)南米産キノコアリ族のうち、Attaなど社会性の高度なグループでは複数回交尾であるのに対し、Cyphomyrmcxなど原始的なグループでは1回交尾であった。このことは、社会進化と交尾回数の間に密接な関係のあることを示唆している。 5)性比も明らかに交尾回数と関連があり、一回交尾のアリでは投資比が雌偏っていたのに対し、複数回交尾の種では雌比が減少していた。Attaではかなり雄に偏っていたが、このことはLRCなど従来の説では説明できず、新たな仮説の考察が必要と思われる。 6)キノコアリ類の菌園造りを詳しく観察したところ、菌類は成虫の主な餌とはなっていないことが明らかとなった。これは菌食の進化に関する従来の仮説と明らかに矛盾する結果であり、この点についても新たな仮説の考察が必要である。 7)これまで多数回交尾の進化に関してはいくつかの仮説が提出されているが、本研究により支持されるのは、a)コロニーの巨大化に伴って女王に十分な数の精子を送り込むため、b)コロニー内の遺伝的多様性を分業体制の複数化の間の相関性、という2つの仮説であった。
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