(1)日本に広く分布するタネツケバナの野生集団を用いて日長要求性および低温要求性の検討を基礎に、生活環制御形質の発現と集団分化の機構を明らかにする試みが行われた。さらに集団が示す遺伝子型を特定し表現形質との対応を検討した。 (2)集団が高緯度になるに従って花芽分化の日長依存性を高め、北緯38度以北では短日条件下での開花は著しく低下した。 (3)低温に対する集団間の違いは小さく、日長要求性の違いが生活史を異にする集団を分化していることが明らかとなった。また、花芽分化後に展開するさまざま形質は到花日数の長短に対応していることから、集団の分化には日長依存性とサイズ依存性のいずれかの方向性に分化することを意味している。 (4)周年を通して生育可能な環境が用意されている西南暖地の集団はサイズ依存の生活史を示すが、発芽が高温域で強く抑制される。一方、高緯度の集団には発芽時の環境による制御は全く見られない。これは低緯度集団では花芽形成という発育相の転換には環境による制御が分化していないが生活環を開始する段階で強く制御系が関与していることを示し、高緯度集団と大きく異なっている。 (5)酸素多型から見た遺伝子型の分布を検討した結果日長要求性が著しく顕著になる北緯38度以北の集団間で類似度が高くなる傾向があるが、特定の遺伝子型の局在は認められない。今後集団の形質発現との対応をさらに詳細に検討する必要がある。
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