研究概要 |
平成7年度の成果をふまえて,以下の4項目の調査・実験を行った。(1)2年生のブナ,イヌブナと当年生のイヌブナについて野外の実生個体群の追跡調査を行い,林床の暗い光条件下ではブナの方が生存率が高く,死亡要因の一部は動物による食害であることがわかった。(2)新たに,強い被陰下(相対照度3%)での当年生実生の圃場成長実験を7年度と同じ方法で行い,2種の乾物成長には差がないが,暗い環境では子葉の寿命が長くなり,種間の差が大きくなることなどが明らかになった。(3)赤外線ガス分析計(富士電機,ZFU1型)とデータ解析システムを用いた光合成測定では,子葉は両種とも陽葉型の光-光合成特性を持ち,最大光合成速度はブナの方がやや高く,本葉と同程度の高さを持つことなどが明らかになった。春の林床が明るい時期の子葉による光合成生産は重要であり,特に子葉の寿命が長いイヌブナでは顕著であるという前年度の予測が裏付けられた。本葉はブナの方が活性は高く,成長解析より得られたより高いNARを持つという結果と一致した。(4)稚樹の齢と母樹の年輪パターンからのmast year(結実年)の調査を行った。各年の芽鱗痕が連続して明確でありかつ子葉痕が確認できた稚樹のデータだけを用いて,過去25年間の結実年を明らかにした。その間にブナは8回,イヌブナは7回の結実があり,結実年の重なりは2回だけだった。調査地のブナと,古くからのデータのある日本海側のブナと同調性は低かった。結実は年輪幅と強く相関しており,年輪幅のパターンからある程度過去の結実を推定することは可能なことが明らかになった。 これまで得られた成果のうち,当年生実生の成長様式と結実年については,近く学会誌に公表する予定である。
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