本年度はおもに以下の3点について明らかにすることを試みた。 1)アカイソウロウグモ(以下アカ)の種内関係およびアカとシロカネイソウロウグモ(以下シロ)の種間関係、2)アカの餌摂食量の評価、3)アカの生活環。 1)については、寄主網上におけるアカを全て取り除いた除去区と対照区を設け、それらの比較により種内・種間関係を明らかにした。除去区ではアカの個体数は急激に増加したが、対照区ではほとんど増減が見られなかった。また、除去区での侵入個体は小型なものが多かった。さらに、低密度の場合と高密度の場合で網内での分布に違いが見られた。したがって、網上のアカの密度は飽和に近い状態にあると考えられ、小型個体が種内干渉によって網から排斥される傾向があることがわかった。また、除去区ではシロの個体数も増加傾向にあったので、種間競争の存在も示唆された。 2)については、2時間ごとのセンサスと30分単位の連続観察を行った。その結果、一個体が一日に盗む体長1mmの小型餌の数は、大型のアカで約12匹、小型のアカで約4匹であることが分かった。一方、イソウロウグモに盗まれずに残っている餌の数は、網当たり平均約20匹であった。したがって、大型のアカ1匹により盗まれる餌の数は、寄主が回収できる量の半分以上にもなることが分かった。 3)オオジョロウグモを寄主としてアカを野外ゲージで飼育し、生活環を調べた。卵嚢から出現後約1ケ月で成体になり、40日ほどで産卵を開始することが判明した。したがって、アカは餌条件が良ければ急速に増殖可能であることが推察される。 以上のことから、イソウロウグモの種間、種内、およびイソウロウグモと寄主の間にはかなり強い相互作用が存在していることが明らかになった。これは、従来クモで報告されてきた結果とはかなり異質なものである。
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