本研究では、遺伝的劣化と人口学的揺らぎの連動効果を明らかにする目的で、アズキゾウムシを用いた実験系を対象に、以下のような実験・モデル解析を行った。 (A)近親交配による近交弱勢の効果の検出:畑で採集した野生のアズキゾウムシから、sib-matingした1雌による系統維持(isofemale line)の方法で近親交配系統を確立し、これと外交配で維持した系統とで、適応度要素の差異を比較した。その結果、10世代目くらいから、不妊率・産下した卵の孵化率・1雌当たりの産卵数の減少が見られた。この結果、隔離された分集団の近交弱勢による遺伝的劣化の影響は比較的早い時期に生じることが示唆される。 (B)推移行列を用いた齢構成モデルの開発:アズキゾウムシのような複数の発育段階から成る集団の動態を表す記述力の高いモデルとして、密度依存的な要素(ロジスティック式で定式化)を持つ推移行列モデルを開発した。これを、アズキゾウムシの累代実験系の挙動と比べたところ、平均個体群サイズ・振動の周期・振幅などにおいて、実験の実験系に良く合う数値計算結果が得られた。 (C)野外の細分化された生物集団への応用:アズキゾウムシの推移行列モデルを応用して、河川敷に散在するキク科植物カワラノギクのメタ集団のモデルを構築し、まれに生じる移動分散で連結されたメタ個体群全体の挙動を計算した。現段階では、生息地内の動態と移動分散の効果だけしか入っていないが、これに遺伝的劣化と人口学的揺らぎを導入するのが次の課題である。
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