研究概要 |
種間比較における統計的推論では,種内変異の影響がみられることが前年度の研究で明らかになった。また,種間でのサンプルサイズ(調査個体数)のばらつきも種内変異が種間で異なることと同様の効果を持つこともわかった。これらはいずれも第1種の過誤の率に影響を与える。 そこで,形質値に種内変異やサンプルサイズに応じた重みをかけて補正することを試みた。すでに別の大標本から種ごとの形質の種内変異が推定されている場合と種ごとの形質値を知るのに使ったサンプルしか使えない場合について,シミュレーションで検討した。すでに種内変異がわかっている場合には,補正はうまく働きほぼ名目値通りの第1種の過誤の率を与えるようにできた。しかし,種内変異が既知でなく当該のサンプルから推定した場合には,補正はうまく働かなかった。これはとくに個体数が少なく種内変異が大きい場合に顕著であった。同時分岐のほうき状系統樹(系統的影響がないと考えられる)と現実に近いと思われる系統樹の両方を用いたが結果は定性的には同じだった。形質の進化をブラウン運動以外のものにすると定性的には同様だったが,補正のかけかたを修正する必要があった。 これらのことから,種内変異が既知でなくしかも種内変異が大きくて調査個体数が少ない種が含まれるデータセットには,独立対比法などは適当でなく,近縁種のペア間の形質の大小関係などを使ったロバストな方法の方が適切だと考えられる。なお,連続的な形質と同様のことが離散的な形質でも生じないかどうか分析したところ,進化速度の変異についてほぼ類似した現象が起こることが示唆された。 とくに連続的な形質のシミュレーションに使用したランダマイゼーションやモンテカルロ検定のプログラムは,種間比較以外のデータ解析でもいくつかの局面で有効に使えることがわかった。
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