多種多様な生態系ほど安定であるというElton (1958)の「多様性=安定性」仮説を理論的に導出するため、捕食者は捕まえやすく量の多い被食者を利用し、被食者は捕食圧に応じて防御するという適応的な可塑性を考慮した数理模型を開発し、その上でできあがる食物網の構造と安定性を解析した。そのために個体数の変化と共に群集構造の時間変化を記述する動態模型を開発した。個体数と行動の連立微分方程式の解として記述できる共進化的に安定な群集構造の一般的性質を分析した。 多種系(個体数、餌選択性、防御努力)の状態変化を記述する微分方程式系の計算機プログラムを開発し、個人用計算機に接続して計算機実験を行った。 行動形質の時間変化を記述する数理模型は、変数がひじょうに多く(種数の2乗に比例する)、複雑なトレードオフ条件(ある餌に関心を示す捕食者は別の餌は見逃す)の制約のもとに解く必要がある。3つ以上の形質に制約がある場合の進化的な安定状態やそれに至る時間変化の数理模型を開発した。まずは簡単な制約条件(線型のトレードオフ、防御の損失がないなど)で力学系の性質を調べながら徐々に非線型のトレードオフなどを考慮した複雑な数理模型へと発展させた。 さまざまな実際の群集での食物網グラフの観測値を計算機に入力し、その一般的性質を調査した。今まで議論されている種数と捕食関係の数の関係、食物連鎖の長さなどの統計観測値と、上記の計算機実験で得られた結果を比較することを試みた。その結果、模型は本質的な側面について新しい展望を与えることが明らかになった。
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