1.野外自然個体群におけるウマノスズクサのバイオマスとそれを利用するジャコウアゲハの個体数の季節的変動を調査し、3年間12世代にわたる個体群変動のデータが得られた。その結果、極端な資源量増加がみられた世代から次世代にかけては、世代遅れの資源量に対する反応がみられたが、それ以外の世代では資源量と幼虫生存率には高い相関がみられた。このことから、ジャコウアゲハ個体群は資源量によって規定され、相互作用系ではいわゆるBottom upが重要であることが示唆された。 2.被食によるウマノスズクサの地上部消失を仮定した刈り取り実験を自然個体群で行い、被食および補償作用がウマノスズクサの年間同化産物生産におよぼす影響を評価した。その結果、ウマノスズクサは非常に大きな補償能力をもつことが判明した。一般に、葉令が進むと光合成能力は低下する。したがって、被食が生じると補償作用によって新しい葉が展開し、古い葉から新しい葉に入れ替わることによって被食されなかった場合より同化の効率が高まることが示唆された。 3.ジャコウアゲハの若齢幼虫にとっての葉の価値を実験的に解析した結果、若い葉は古い葉にくらべて葉の価値が非常に高いことが判明した。したがって、被食による新葉の展開という補償作用は、食う側と食われる側の両者の葉の価値という点からみても、ジャコウアゲハとウマノスズクサの相互作用系の維持に重要な役割を担っていると考えられた。 4.食う側と食われる側の葉の価値におよぼす被食の影響やその季節的変化等について化学成分の違いによる解析を進めている。さらに、食う側の葉の価値との関連で、ジャコウアゲハ幼虫の植物体茎部の環状剥皮行動の意義についても化学分析を進めている。
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