琉球列島西表島にて数種のテナガエビの採集を行ない、分析のためのサンプルを得た。また、すでに確保されているテナガエビ(M. nipponense)およびミナミテナガエビ(M. formosense)のいくつかの地方集団について、アロザイム分析をおこなった。その結果、同一水域に生息する2つの近似種(同胞種)のテナガエビとミナミテナガエビとでは、保有する遺伝子が異なり、明らかに生殖的隔離が成立していることが解った。これらの2種は、今後このグループの種分化機構を解明する上で有望な研究材料となるであろう。テナガエビ集団の保持する遺伝子多様度(平均ヘテロ接合頻度)に関しては、河口の小卵多産集団で最も大きく、内陸部汽水湖の中卵中産集団では減少し、さらに内陸部淡水湖の大卵少産集団では最小となる傾向の有ることがわかった。これは、指定された生息場所の進化的移行経路と良い対応性を示している。 次年度以降さらに多くの種間の比較を行なうことにより、このグループの系統分岐の関係、および遺伝子多様度と生活史進化の対応関係が一層明確となるであろう。
|