昨年にひきつづき、琉球列島(西表島)でテナガエビ類の採集を行ない、得られた材料に関してアロザイム分析を行なった。本研究の目的の1つである、近縁種間の比較の問題は、平成9年度、更に多くの材料に関して分析を行ない結論をえる予定である。 本研究のもう1つの目的である単一種(テナガエビMacrobrachium nipponense)集団の遺伝的構造に関しては、日本本土から得られた28集団に関してアロザイム分析をほぼ終了し、集団間の遺伝的類似性に基づく集団分化の全体像を把握することができた。また、本種の集団分化過程で遺伝子分散(gene flow)が重要な役割を担っていることを示唆する結果もえられた。すなわち、河口域に分布する小卵産出群では、広い地理的範囲にわたって遺伝的組成が類似しており、そのなかで太平洋側に分布する集団では遺伝子頻度のクラインが認められた。このクラインは酵素タンパク分子の環境因子への適応では説明ででず、低頻度の1方向的な遺伝子分散が起こっていることを示唆するものである。いっぽう、内陸部に生息する大卵産出群の遺伝的組成は、そのような河口集団とは異なっていた。これらの結果は、日本生態学会(1996、3月;東京都立大学)で発表した。
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