多細胞生物である高等植物の形態形成においては、細胞自身の分化に加えて、分化した細胞同士の相互作用や空間的配置が重要である。現在までに細胞同士の接着に関わる多糖としては酸性多糖の一種であるペクチンが考えられているが、その分子機能は言うに及ばず、構造に関しても未知の部分がほとんどであると言っても過言ではない。このような研究の現状を打ち破るためには、ペクチン様多糖の構造に変化の生じた結果、細胞同士の接着性や形態形成現象に異常の生じた様なミュータントの作出と、その解析が極めて有効であると考えられる。 われわれは10年以上にわたってニンジン培養細胞を用いて形態形成、特に不定胚形成機構の解析を行ってきた。その過程で得られた、形態形成能力を失った細胞株では細胞間の接着性が弱まり、極めて小さい細胞塊しか形成し得ないことを見い出した。 そこで本研究では、ニンジン培養細胞の細胞間の接着性を形態形成能力の異なるカルス株を用い、その細胞壁から多糖を抽出し、セルロースアセテート膜電気泳動による分析を行った。その結果、形態形成能力のあるカルスのペクチンには、中性糖がより多く含まれることが明かとなった。そこで、スポットの部分から、多糖を抽出し、糖組成を調べたところ、アラビノースの含量に大きな差があることが判明した。さらにペクチンの中性糖側鎖の構造を解析したところ、形態形成能力を有する細胞接着の強いカルスほど末端のアラビナンのサイズが大きく、中間部のガラクタンのサイズが小さいことに加え、ガラクツロン酸に直接結合しているキシロースの含量も多いことが判明した。 以上の結果は、ペクチン分子の中性糖側鎖が細胞の接着性や形態形成に関わっている新たな可能性を示している。
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