我々は、従来セルロース合成そのものを研究していたわけではなく細胞骨格の一つである微少管(microtubules)が細胞の伸長生長に重要な役割を果たしているのでその機構を理解しようと研究を進めていた。ところが、意外なことに細胞質にのみ存在すると考えられていた微少管構成タンパクであるチューブリン(tubulin)が細胞膜にも存在することが明らかになったので膜のどこにどのような形で存在するのかを解明しようとしていた。 二次元電気泳動、カラムクロマトグラフイ-での行動パターンはチューブリンが何か大きな複合体に組み込まれていることを示唆していた。チューブリン抗体を用いた免疫電子顕微鏡法でさらに詳しく調べてみるとチューブリンは直径8〜9nmの大きさの顆粒に存在することが明らかとなった。この大きさはロゼット構造を形成する6個の顆粒の大きさに一致するものであった。そこで、セルロース生合成の前駆体といわれているUDP-グルコースを加えてみると期待したとおり直径約1nmの太さのフイラメントを大量合成した。このフイラメントの性質は明らかにカロースとは異なり、セルロースの特徴をすべて有していた。このセルロース合成酵素複合体はチューブリンのほかに65kDa、33kDa、14kDaの主構成タンパクと2〜3個の微量タンパクを含んでおりそれぞれが機能を分担しているものと推測される。 また、植物細胞は傷害を受けるとセルロース合成をやめカロース合成に切り替えて傷口を埋めてしうことが知られている。この2種の多糖合成は同一の酵素によって行われているのではないかという推測がなされていたが、我々の研究でもセルロース合成からカロース合成に切り替える因子の存在が示唆され、同時にマグネシウムおよびカルシウムがこの切り替えに重要な決定権を持っていることも示唆された。 今後は上に述べた可能性を精製した再構成系で証明し、さらにこれらの構成タンパクの遺伝子のロ-ニングを行いタンパクの構造と機能を関連づけ酵素活性部位と調節部位を決定したいと考えている。
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