研究概要 |
これまでに,タバコ培養細胞をショ糖飢餓条件下におくと,細胞内でタンパク質分解が亢進すること,そして,飢餓処理と同時に細胞をシステインプロテアーゼ阻害剤で処理するとそのタンパク質分解の亢進が抑えられ細胞内にリソソーム様の膜小胞が蓄積すること,を明らかにしてきた。また前年度,液胞型H+-ATPaseの阻害剤であるバフィロマイシンやコンカナマイシンの自食作用に対する効果を調べ,これらの薬剤はシステインプロテアーゼ阻害剤と同様にショ糖飢餓によって誘導されるタンパク質分解の亢進を阻害すること,それと同時に多数の顆粒が液胞内に蓄積すること,を明らかにした。そこで,今年度は,リソソームと考えられる膜小胞と液胞に蓄積する顆粒を電子顕微鏡を使って詳しく観察し,それらの構造を比較することにより自食作用の機構を明らかにしようと試みた。まず,リソソーム様の膜小胞内にはウランと鉛を用いた通常の電子染色で電子密度が細胞質基質よりも高い顆粒が1個から数個存在した。それらの顆粒は細胞内の何に由来するのかが判別できないほど壊れていた。これに対して,液胞型H+-ATPaseの阻害剤によって液胞内に蓄積する顆粒は膜に囲まれており,顆粒の電子密度は細胞質とほぼ同じ程度であった。また,顆粒内にはミトコンドリアがほぼ健全な形を保ち含まれていた。このことは,H+-ATPase阻害剤はシステインプロテアーゼ阻害剤と比較して,ショ糖飢餓によって誘導されるタンパク質分解・自食作用の経路をより上流で阻害していることを示唆している。現在,この仮説をさらに詳しく検討している。
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