研究概要 |
ショ糖を含む培地で培養していたタバコ細胞をショ糖を含まない培地に移すと、細胞内プロテアーゼが活性化し,自己タンパク質の分解が亢進することがわかった。また、栄養飢餓処理と同時に細胞をシステインプロテアーゼ阻害剤で処理してプロテアーゼの活性化を阻害すると、自己タンパク質の分解は抑えられ,同時に,細胞内に直径1-6umの膜小胞が多量に蓄積することがわかった。 この膜小胞は内部が酸性であり,酸性ホスファターゼを持っていることから,リソソームに相当するオルガネラと予想された。リソソーム様の膜小胞内には、通常の電子染色で,電子密度が細胞質基質よりも高い顆粒が1個から数個存在した。それらの顆粒は細胞内の何に由来するかが判別できないほど壊れており,顆粒のまわりに膜構造は認められなかった。さらに,栄養飢餓処理と同時に,細胞を液胞型ATPase阻害剤で処理すると,今度は,液胞内に多数の顆粒が蓄積することがわかった。これらの顆粒は膜に囲まれており,顆粒内にはミトコンドリアが健全な形を保ち含まれていることから,これらは細胞質が何らかの様式で膜に囲まれ,液胞内に運ばれてできた構造であると考えられた。 以上のことから,現在,(1)ショ糖飢餓処理に伴い細胞内でタンパク質分解が昂進するが,その分解はリソソームを介した自食作用によるものである,(2)リソソームでは,システインプロテアーゼがタンパク質分解に重要な役割を果たしており,プロテアーゼ阻害剤によってその活性が阻害されると,リソソーム内でのタンパク質分解が進行しなくなり,その結果,細胞構成成分を含んだリソソームが細胞内に蓄積する,(3)液胞型ATPaseの阻害剤は,自食作用においてオートファゴソームがオートリソソームに成熟する過程を阻害し,この薬剤によって液胞内に蓄積する顆粒は,オートファゴソームに由来する構造である,と結論した。
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