研究概要 |
高等植物葉緑体内では、転写直後の前躯体RNA上の一部のCがANAエディティングによりUに変換され、さらにプロセシングやスプライシングを経て成熟RNAとなる。我々は全塩基配列を解析した裸子植物クロマツの葉緑体ゲノム(119,700bp)に存在する62種類の蛋白質遺伝子および葉緑体DNAで保存性の高いORFについて、RNAエディティング予想部位の検証を進めた。 <方法>クロマツ葉緑体のRNAse処理全DNAおよびDNAseI処理全RNAをテンプレートとするcDNAを調製し、目的部位に対するプライマーセットを設計合成してPC法でそれぞれのDNAを増幅した。得られたDNAを必要な場合はクローン化し、両者のシーケンスを行って比較解析を行った。 <結果>26箇所でRNAエディティングを確認した。これらの中には、以下のような新たなエディティングタイプが含まれている。1)ACG->AUGエディティングによる新たなORF形成を確認した。この事例は、DNA配列からは直接的には確認され得ないORFが存在することを示すものである。2)CAA->UAAエディティングによる終止コドン形成(2例)を確認した。この事例も、DNA配列から直接的な確認の出来ない読み枠の形成に関与するものである。3)GCA->GUA,CCC->UCC,ACU->AUU,CUG->UUGというエディティングタイプを確認した。これらは、従来報告の無いRNAエディティング事例である。 確認されたエディティング部位周囲におけるコンセンサス配列の検出を試みて、アライメントを行ったが充分な相同性は認められず、エディティング部位の検出機構については手掛かりが得られなかった。 <考察>開始コドンや終止コドンの形成に関与するRNAエディティング例を確認出来たことによって、葉緑体の遺伝情報発現系におけるRNAエディティングの役割が、従来認められていたものよりも幅広いものであることが示された。これらの事例が他の葉緑体においても確認出来るかどうかが更に検討されるべきであろう。
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