研究概要 |
本研究は,サイトカイニン作用の分子的な機構を知るために,初期に起こる遺伝子発現の変化に着目し,サイトカイニンによって迅速かつ特異的に抑制される遺伝子CR20の性質を明らかにしようとして行われた。cDNAクローンとゲノミッククローンの解析により,この遺伝子は三つのエクソンから成り,第2イントロンのスプライシングの違いにより,少なくとも3種類の転写物が生じていることがわかっている。第2イントロンを含むcDNA(CR20-A)と第2イントロンを含まないcDNA(CR20-C)を,それぞれカリフラワモザイックウイルス35Sプロモーターにつないで,アクロバクテリウムを介した方法により,タバコに導入し,過剰発現させることを試みた。CR20-Aについては12個体,CR20-Cについては10個体の形質転換体が誘導されたが,CR20-Aの12個体のうち3個体は途中で成長が止り,種子が採れなかった。特に,そのうちの1個体は,第5葉まで展開したところで,主葉脈に沿って白化が始まり,成長点が消失するなど,顕著な形態異常が観察された。残り9個体については、種子は採れたが,そのうち1個体は他の個体に比べて葉の色が薄かった。CR20-C導入タバコは10個体とも,特に形態に異常はみられず、すべての個体から種子が得られた。現在までに,CR20-A,CR20-C導入タバコそれぞれ6個体の種子から,様々な分離比で形質転換体が生じることが確かめられた。 キュウリにおいて,CR20の発現は,サイトカイニンの重要な作用点と考えられる緑化初期に大きく変化することがわかっている。CR20-A導入タバコに葉の色の異常がみられたことは非常に興味深い。今後,このような形質が次世代に伝わるかどうか,またこのような形質とCR20の発現に相関があるかどうかを調べる必要がある。形質転換体のいくつかについては,導入したキュウリCR20が実際に発現していることをRT-PCR法により確認した。
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