ウズラの背中の羽毛には黒と黄色の縦縞があるが、黒色初毛致死突然変異体(Bh)では、その羽毛色素パターンが一変し、ヘテロ型は真っ黒になり、ホモ型は致死だが、羽毛が発生するまで生存したものは黄褐色の羽毛をもつ。鳥類の羽毛色素パターンは、メラノサイトとそれを取り巻く細胞との相互作用により形成されるので、本研究では、Bh遺伝子が、メラノサイト、周囲の環境、あるいはその両方の、どの細胞で発現されているか調べるため、アルビノ2日胚(メラノサイトが分化し、色素をつくるための環境は正常だが、色素合成系に異常がある)にBh2日胚神経冠を同所移植した。その結果、野生型、ヘテロ型メラノサイトは正常羽毛環境で各々野生型、ヘテロ型タイプの羽毛色素パターンを形成した。ドナー胚のホモ型の多くは発生初期に死亡するため、アルビノ胚に移植したメラノサイトのうちホモ型については正確に遺伝子型を決められなかったが、アルビノ胚上でホモ型タイプの羽毛色素パターンを示すものもあった。以上の結果は、Bh各遺伝子型の羽毛色素パターンが、メラノサイトを野生型羽毛環境に置いても回復しないことを示しており、Bh遺伝子がメラノサイトで発現していることを示唆している。 一方、Bh遺伝子を特定する糸口として、研究の進んでいるマウス毛色突然変異体の中で、Bhのホモログの可能性の高いW、 Slとの比較を組織学的に行った。WやSlにおいては、毛色パターンの異常に加えて、生殖細胞や造血細胞が欠損するが、Bh10日胚では、その卵巣、精巣、胸腺、ファブリキウス嚢、脾臓、骨髄などの器官に、発生遅延はみられるが、造血細胞や生殖細胞が欠損することはなかった。ただ肺での出血がホモ型の全てにみられた。以上より、Bh遺伝子はWやSlのホモログではないが、メラノサイト、皮膚の細胞、肺の細胞で発現する多面発現遺伝子であると思われる。
|