時間分解蛍光免疫測定法(TR-FIA)によりカイコ前胸腺刺激ホルモン(PTTH)の血中濃度を測定し、カイコの発育・変態に伴う変動の実態を明らかにした。また、同一血液サンプル中のエクジステロイド濃度をラジオイムノアッセイにより測定し、両ホルモンの変動の相関を調べた。その結果、PTTHのピークは、4令2日目、5令のワンダリング期、前蛹期、蛹期前半にそれぞれ認められ、その同時期あるいは12時間後には常にエクジステロイドのピークが存在することが明らかとなった。また、PTTH濃度のピークの高さとそれに続くエクジステロイドピークの高さには相関が認められ(ワンダリング期を除く)、前胸腺のエクジステロイド合成・分泌活性はPTTH濃度に依存することを強く示唆した。さらに、5令摂食期にも少量のPTTHが存在すること、羽化直前期にも血中PTTH濃度が上昇することなどの興味深い知見を得た。5令初期にPTTH抗体を注射するとワンダリングの時期が遅れ、その程度が5令2-3日目に注射した場合に比べて大きいことから、摂食期に存在する少量のPTTHも前胸腺に対し何等かの作用をもつと考えられる。羽化期には前胸腺は退化していることから、この時期に分泌されるPTTHは前胸腺以外の組織に作用する可能性もある。 一方、PTTHの分泌調節機構に関する研究を行なった。5令初期の幼虫を二群に分け、それぞれを12時間ずらした光周期下に置いたところ、ワンダリング期のPTTHピークの時刻が12時間ずれて生じた。このことは、PTTH分泌のタイミングが光周期に依存的であることを示す。また、5令初期の幼虫を絶食させると血中濃度が低下すること、再摂食により急激に回復することが分かった。この結果は、5令初期の少量のPTTH分泌は栄養依存的であることを示唆する。
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