研究概要 |
1.卵胎生硬骨魚類ソードテ-ルの胚における胴部神経冠細胞の移動経路を、この細胞を染める単クローン抗体HNK-1を用い、発生段階を追って調べた。その結果、神経管レベルでは神経冠細胞の移動経路には前後の片寄りが見られないが、脊索レベルまで移動すると神経冠細胞は体節の中央部に集まってくることが分かった。これは神経冠細胞が体節の前方部を移動する羊膜類との違いである。またソードテ-ルにおいても神経冠細胞が脊髄感覚神経節、交感神経節などの神経細胞に分化することが確認できた。なお一時期ではあるが脊髄原基中にHNK-1陽性細胞が出現することから、神経冠細胞が脊髄の間充織細胞に分化する可能性が示唆された。 2.円口類のスナヤツメの胚においても同様にHNK-1陽性細胞の出現過程を免疫組織化学的に追跡した。スナヤツメに特異的なことがらとしては,HNK-1陽性細胞の移動が脊索レベルを越えて、腹側に認められなかったことである。この観察は、スナヤツメにおいて自律神経系が未発達であるという事実と密接に関連すると考えられる。さらに、神経管中にも陽性細胞が出現し、表皮直下に陽性の神経繊維網が観察された。神経管中の陽性細胞は、dorsal cellと呼ばれている感覚性神経細胞に相当する。スナヤツメでは脊髄感覚神経節が極めて小さいことから、神経冠細胞として神経管の外に出る細胞は少数で、かなりのものがdorsal cellとして脊髄中に残る可能性が考えられる。一方、表皮直下の神経繊維網は、少なくともその一部はdorsal cellの突起から成っていた。これらの観察結果は、神経冠細胞は無脊椎動物(後口動物)の表皮中に突起を伸ばす感覚性神経細胞に由来するとする説と考え合わせ、興味深い。
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