生体蛍光染色によりエラを立体的に広視野で観察することができた。通常の切片法では得難い情報を得ることができた。この方法と切片法を併用することにより、さらに新たな知見が期待される。メダカは海水にもよく適応し、飼育および入手が容易であり、浸透圧調節にかかわる組織学的研究には最適な魚種である。メダカにはタイプの異なる塩類細胞がみとめられた。淡水中では小型であり、海水に適応させると大型になった。それぞれを淡水型、海水型とした。外界塩濃度変化に応じて、これらの型の細胞は入れ替わる。すなわち、組織学的にTURNOVERすることを捉えた。環境塩濃度の変動に応じて、塩類の逆方向の輸送にあたるものと推測されるが、どのような細胞から分化するのかについては、判断できなかった。塩類細胞は蒸留水や強酸性環境下においても著しく発達した。酸性環境に塩分を添加すると塩類細胞の形態が変化した。塩類細胞には多くの機能が類推され、多機能細胞ともよばれることがある。しかし、本実験からは異なる推測がなされた。すなわち、塩類細胞は魚類が適応する環境の水質に応じて役割を変えるのではなく、基本的に体液浸透圧の主成分であるNaClの代謝にかかわる単一の機能を果たしているものと考えらた。pHなど浸透圧成分とは直接にかかわらない体液成分の調節には、塩類細胞以外のエラ上皮細胞が関与するか、もしくは腸や腎臓などの他の器官が機能するのかも知れない。いずれにしても、体液浸透圧調節は固体レベルでの調節の結果であるが、固体全体を視野に入れた解析は遅々として進んでいない。分子レベルでは解明の困難な、行動学的・生態学的な側面を視野に捉えた生理学をおこなう必要があろう。
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