ノンスパイキング介在神経の樹状突起におけるシナプス入力の統合過程を明からにする目的で、アメリカザリガニProcambarus clarkii Girardの腹部採集神経節で同定される大型の機械感覚性ノンスパイキング介在神経であるLDS細胞について、その樹状突起の形態を、共焦点レーザー走査型顕微鏡を用いて定量的に調査した。LDS細胞は、細胞内刺入したガラス管微小電極によって記録される感覚応答と電流注入実験による膜応答とによって同定した後、蛍光色素ルシファーイェロウを細胞内注入して可視化して検鏡した。 樹状突起の長さと直径は、1または2μmの間隔で共焦点レーザー走査型顕微鏡により作成した光学的切片(約150〜270枚)を用いて三次元的に測定し、その実長を得た。その結果、実験に用いた固定、脱水、透徹条件のもとでは、in vivoのときと較べて、突起直径が約85%収縮するが、長さに統計的な違いが見られないことが判明した。この結果に基づいて固定後の測定値を補正することにより、in vivoでの樹状突起の直径と長さを求めた。13個のLDS細胞での測定により、1)LDS細胞の太い樹状突起はすべての個体で共通の分枝パターンを示すが、シナプス入力を受け取る細い突起は、個体によって異なる分枝パターンを示す、2)突起の全長、全膜面積、各主要突起の電気緊張的長さ等も個体によって異なる、3)LDS細胞の細胞体側(入力側)の突起は、すべての個体で、反対側と較べて、長さ、膜面積において統計的に有意に大きな値を示す、等の結果が得られた。樹状突起形態に見られるこれらの個体間変異性と共通点とが、どのような機能的意味を持つかについては、現在各個体でのLDS細胞のモデルを作成して、シナプス活動を計算機シミュレーションすることにより調査中である。
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