ゴキブリのキノコ体による高次運動制御機構を明らかにするため、埋め込みワイヤ電極を用いて自由行動中のキノコ体ニューロンの活動の解析を進めるとともに、キノコ体の神経回路の詳細についての組織学的な検討を行った。 1.ワモンゴキブリのキノコ体に直径17μmの被覆銅線を埋め込み、歩行運動時のキノコ体のニューロンの活動を慢性記録した。キノコ体の入力部のニューロンの大多数は感覚性であり、種々の感覚刺激に反応した。一方、キノコ体の出力部のニューロンは感覚刺激時および運動時の活動から、(1)種々の感覚刺激に反応するニューロン、(2)歩行時に活動する運動性のニューロン、(3)感覚刺激時にも行動時にも活動する感覚一運動統合型のニューロン、(4)歩行中および歩行の開始に先行して発火するニューロン、の4つのタイプに分けられた。4番目のタイプのニューロンは運動の開始や組み立てに関与するものと考えられ、特に注目された。 2.ゴキジ染色法および渡銀染色法を用いた研究の結果、ゴキブリのキノコ体の出力部位にはサイズの異なる2種類の単位構造の繰り返しがあることが明らかになった。第1の構造は、数百個のケニオン細胞の軸索から形成される厚さが1μmないしそれ以下の薄いシートである。キノコ体の約20万個のケニオン細胞は並列に配置された200-1000のシートに組織化されていると推定された。第2の構造単位は厚さが3μmないしそれ以上の薄板で、明るい板と暗い板が交互に並んだ薄板構造として観察された。薄板の数は約30であった。昆虫のキノコ体は哺乳類の皮質と同様に発達したモジュール構造を持つと結論づけられた。
|