本研究の目的は、原生動物の繊毛虫類にみられる「短縮型」のヘモグロビン様タンパク質が一体どのような分子構造をとり、どのような生理機能を果しているのかを、哺乳動物のHbやMbと対比させながら、分子進化的観点から解析することにある。そこで、テトラヒメナ(Tetrahymena pyriformisおよびTetrahymena thermophia)を大量培養して、次の実験を行った。 (1)原生動物ヘモグロビンの単離精製 まず細胞を破砕後、硫安文画、Sephadex G-50によるゲル濾過、およびCM-cellulose column chromatoographyなどにより、ヘモグロビン様タンパク質を単離精製した。その結果、高純度のオキシ標品が常に安定した状態で得ることに成功した。 (2)高次構造の解析 円偏光二色性(CD)を測定した結果、テトラヒメナHbのヘリックス含量は約55%と見積もられ、哺乳動物のMbの75%と比較して極めて低いことが分かった。この事実は、一次構造の上でも32残基短い「短縮構造」を取っていることと関連して、分子進化的観点から極めて興味のある知見となろう。 (3)ヘム近傍の構造 Soret領域における分光学的測定からは、結合酸素の安定性に重要な役割を果たす遠位(E7)ヒスチジン残基が、原生動物のヘモグロビンにも存在している可能性を強く指示している。 (4)生理的機能 この特異な構造をもつ原生動物のHbがどのような機能を持っているのかを解明するために、結合酸素の安定性を、オキシ型からメト型への自動参加速度として、広いpH領域に渡つて現在測定中である。その一部については、動物学会第66回大会に於いてすでに発表した。
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