研究概要 |
本研究の目的は、原生動物の繊毛虫類にみられる「短縮型」のヘモグロビン様タンパク質が一体どのような分子構造をとり、どのような生理機能を果たしているのかを、哺乳動物のHbやMbと対比させながら、分子進化的観点から解析することにある。そこで、テトラヒメナ(Tetrahymena pyriformis)を大量培養して、前年度の引きつづき次の実験を行った。 (1)原生動物ヘモグロビンの単離精製 まず細胞を破砕後、硫安分画、Sephadex G-50によるゲル濾過、およびCM-cellulose chromatographyなどを行って、ヘモグロビン様タンパク質を単離精製した。その結果、高純度のオキシ標品が常に安定した状態で得ることに成功した。 (2)酸素親和性と結合酸素の安定性についての 哺乳動物のミオグロビンと比べて、32残基も短い「短縮構造」を取っているテトラヒメナのヘモグロビンについて、まずその酸素親和性を求めた。酸素平衡曲線(OEC)の解析から得られたP50値は0.2Torrであった。一方、結合した酸素の安定性を調べるために、オキシ型からメト型への自動酸化速度を広いpH領域(5〜13)に渡って測定した。得られたpH-profileを比較検討すると、酸性領域で顕著な速度増大が見られ、遠位(E7)ヒスチジン残基を介した「プロントン-リレー機構」が自動酸化反応の大部分を押し進めているものの、全体としては、哺乳動物のミオグロビンのそれと同程度の安定性を示していることは、驚くべき事であった。 (3)ヘム近傍の構造と遠位ヒスチジン残基の有無について 結合酸素の安定性に重要な役割を果たす遠位(E7)ヒスチジン残基が、原生動物のヘモグロビンにも存在していることが、Soret領域における分光学的測定からも明らかとなり、ヘモグロビンやミオグロビンの分子進化について極めて興味ある問題を提起した。 尚、これらの結果については、その一部をEurop.J.Protistol.,32(1996),73-78に発表した。
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