研究概要 |
1・成虫脱皮後に片側の尾葉を除去したコオロギにおいて、4種の尾葉感覚性介在神経(MGI,LGI,GI9-2,GI9-3)の空気流刺激に対する閾値流速と反応量を刺激方向別に調査した。これは感覚除去後の介在神経の機能回復を調査する際のコントロールを得るためのものであったが、結果は各介在神経の反応特性が左右の尾葉上の機械感覚毛からの興奮性あるいは抑制性入力により、どの様に形成されているかを明らかするためにも充分なものであった(論文投稿準備中)。次に片側尾葉切除後21日目の個体群で各介在神経の反応特性を再調査した。その結果、閾値流速はどの介在神経においても明らかに補償と見られる変化は確認できなかったが、反応量は3種の介在神経(MGI,LGI,GI9-2)で補償的な変化が見られた(論文投稿準備中)。しかしながら、その様な変化は全ての刺激方向において見られるわけではなく、介在神経によって変化を示す刺激方向と変化を示さない方向があった。これは各介在神経が異なる方向性を持つ機械感覚毛から特異的に入力を受けていることによると思われる。この点に関してはさらに検討が必要である。前年度の調査で、成虫脱皮後に片側尾葉切除を施された個体で、逃避行動における反応率と方向性に補償的変化が起こることが明らかとなっている。本年度の調査で明らかとなった介在神経レベルでの補償的変化がそれら行動上の変化の基盤となっている可能性が高い。しかしながら、今回の調査では途中経過のデータが得られなかったために、両者を直接結びつけて考えることはできなかった。この点については次年度の課題である。 2・尾葉切除継続期間と反応特性の変化の割合との関係を明らかにするため、コオロギ幼虫期の様々な時期から片側尾葉切除を開始し、脱皮の度に出現する再生芽を除去し続けながら成虫まで飼育した個体で尾葉感覚性介在神経の反応特性を調査した。その結果、MGIとGI9-2において片側尾葉切除により変化した閾値流速が補償的に変化し、その回復の程度は切除期間の長さと関係があることが明らかとなった。すなわち、切除期間の長い個体ほど正常なものと近い閾値を示した。この場合も刺激方向によって回復の程度に差が見られたことから、特定の方向性を持つ機械感覚毛との持続が特異的に増強されている可能性が示唆される。
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