研究概要 |
成虫コオロギにおいて6種の空気流感受性巨大介在神経(GIs8-1,9-1,9-2,9-3,10-2,10-3)の方向感受性および刺激強度(空気流速)と反応量との関係を明らかにした。また、GIs8-1,9-1,9-2,9-3においては片側尾葉除去後に生じる反応特性の変化から、特定の方向性を持つ機械感覚毛との興奮性あるいは抑制性の接続により、それらの方向特性が形成されていることを明らかにした。さらに片側尾葉を除去したコオロギを3週間飼育し続けた後、各巨大介在神経の反応特性を再調査したところ、GIs8-1,9-1,9-2において補償的機能変化が確認された。異なる幼虫期から片側尾葉切除を続けた個体において成虫脱皮後に同様の調査を行い、切除直後の成虫のデータと比較した。その結果、それらの反応特性の間に違いが確認され、脱皮成長期間中にも神経系の機能変化が生じていることが判明した。特に1齢幼虫から尾葉切除を開始した場合、巨大介在神経の閾値流速は発生段階のより後期で切除を開始した場合に比べ低い値を示した。 空気流刺激に対する逃避行動解析により、標準的な空気流刺激に対しては、50〜60%の反応率が得られること、またコオロギは刺激空気流源から最も遠ざかる方向(180°逆方向)に逃避を行うことが判明した。片側尾葉切除後の成虫コオロギにおいて、空気流刺激に対する反応率は切除後6日目に、方向性は14日目に統計的に有意な補償的回復を示した。反応率と方向性が異なる時間経過で回復するという事実は、それらを決定するための情報処理がそれぞれ異なる神経回路で並行して行われている可能性を示唆している。異なる幼虫期から片側尾葉を継続的に切除された個体では、より若齢期から片側尾葉を継続的に切除された個体の反応率の方が低かった。一方、方向性においては、より若齢期から片側尾葉を継続的に切除された個体のほうが高い回復率を示すことが明らかとなった。これらの事実は、コオロギの成長期間中に、神経系内の異なる部分において、補償的変化と退行的変化という全く正反対の変化が同時進行したことを示していると考えられる。
|