研究概要 |
1.コガネグモの4対の眼(前中眼、前側眼、後中眼および後側眼)の視細胞の応答は、視神経を介した遠心性ニューロンの情報により調節を受けており、恒常暗黒下では感度のサーカディアンリズムを示す。昼夜間期の視細胞の応答特性を暗順応した前側眼の受容器電位を記録して調べた結果、夜間期には視細胞の感度は上昇するが、周波数特性が悪くなる事、また、昼間期には感度は下がるが周波数特性が良くなる事が明らかになった。この結果は、視細胞は夜には弱い光の受容に、また昼には光強度変化の受容に適合した状態に変化している事を示している。この昼夜の光環境に対応した視細胞の応答特性の変化には、電位依存性イオンチャネルの関与が考えられる。また、ERG応答を指標に遠心性ニューロンの活動変化を調べた結果、遠心性ニューロンは光感覚系からの入力に加え、他の感覚系からの入力も受けている事が示唆された。 2.昼夜にわたって活動するコガネグモは、眼に定常的に提示した点光源に対し暗黒背景下では負の走光性を、また明るい背景下では正の走光性を示す(Yamashita and Tuji,1987)。今回、背中を固定し肢にY型迷路球を持たせた、昼行性のハエトリグモおよび夜行性のオニグモを用いて走光性を調べた。その結果、ハエトリグモは明暗何れの背景下でも正の走光性を、またオニグモは明暗何れの背景下でも負の走光性を示す事が明らかになった。これらの結果は、クモ類の走光性がクモの活動時の光環境と密接な関係を持つことを示唆している。昼夜行性のコガネグモでは、脳内光感受性細胞の活動が増加する条件下(脳局所照明時、明背景下等)では、眼に提示した点光源に対し正の走光性を示す事から、脳内光感受性細胞が明暗に伴うクモの行動変化を制御している事が考えられる。
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