本研究の目的は、コオロギの産卵行動の日周リズムとその発達経過、および交尾による産卵活発化機構の解析を行うことにあった。そのための具体的目標は(1)産卵行動記録装置の開発、(2)正常な雌の産卵行動の記録と解析、(3)手術を施した雌の行動記録を正常な雌と比較することによる産卵発現機構の解析、であった。 平成7年度に(1)の記録装置の実用化に成功し、記録をコンピュータによって解析できるようになった。同時に歩行活動も記録でき、産卵行動との関連も考察できるようになった。 平成8年度は(2)の正常な雌の行動記録と解析を行った結果、次のことが明らかになった。(a)羽化第1日目に交尾した雌でも未交尾の雌でも、羽化後3-4日で産卵行動が開始される。(b)交尾した雌では4日目から実際に卵が産み出され、日を追って産卵活動量は増加するが、未交尾雌が実際に卵を生むのは平均17日目であり、産卵活動の量も少ない。(c)12L:12Dの明暗周期では交尾した雌の産卵活動は暗期に集中するが、未交尾の雌では明暗に関係ない。(d)歩行活動は、逆に未交尾雌で暗期に集中しており、交尾した雌では明暗に関係ない。また交尾した雌の歩行活動の量は非常に低下する。 平成9年度は、(3)のうち巣除去手術を施した雌で行動を記録し、正常な雌との比較を行った。その結果、産卵行動、歩行活動とも、正常な既交尾、未交尾の雌の場合と変わりがないことが明らかになった。このことから、卵巣の有無は、産卵行動の開始および交尾による活発化に関与しないことがわかった。 今後は、さらに生殖器の成熟を支配しているアラタ体ホルモンの行動への関与、交尾による産卵活発化要因の機構を、この記録・解析システムを応用して解明してゆきたい。
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