研究概要 |
R-SGF(rat serum growth factor,ラット血清性細胞増殖因子)は、ラット、マウス、サルの血清中に我々が発見した、新種のヘパリン結合性細胞増殖因子である。ラット血清から4段階のクロマトグラフィーで精製され、S-S結合を持つ酸および熱に不安定な、分子量約32kDaの蛋白質であることが判明している。今回は、この因子の精製を、これまで貯めておいたウィスター系雄ラット血清約600mlから開始した。しかし、最後の疎水性相互作用クロマトグラフィーに於て、蛋白質分解酵素阻害剤をPMSFからABSFに変更したところ、活性が1/2以下に減少してしまい、初期の目的であるアミノ酸組成の決定は不可能な収量となってしまった。この結果から、アミノ酸組成の情報を得るには2-3リットル以上の血清が必要なことが分かったので、交付された補助金の大半をラット血清購入に充てざるを得なくなった。 今回得たR-SGFの精製品を用いて、その増殖促進活性の細胞特異性を調べた。既に、この因子が、ラット胎児線維芽細胞に対して、初代培養後の有限寿命細胞には増殖活性を示さないが、それらを長期継代して無限寿命化した細胞には高い活性を示すことを見出しているが、今回、マウスおよびウサギの線維芽細胞でも同様の結果を得た。一方、無限寿命化したヒト線維芽細胞に対しては、活性を示さなかった。この結果は、この因子がヒト血清中には存在せず、又、ヒト細胞は容易に無限寿命化しないことから、妥当なものと考えられた。R-SGFは又、ラットとウシの肝臓および腎臓由来の株化(無限寿命化)上皮細胞の増殖を著しく促進した。 これらの結果から、R-SGFがラット生体内で、何らかのイニシエーターの刺激により変異した(=無限寿命化した)上皮および繊維芽細胞にプロモーターとして作用し、癌発症に関わっている可能性が示唆された。
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