研究概要 |
研究年度の最終年にあたる平成9年度はクロショウジョウバエ区の野外生態を冷温帯域から暖温帯域まで広範囲に調査し,核型分析,形態比較観察,生殖的隔離機構等についても補足的な研究を行った.さらに分子系統樹を構築し,東アジアにおけるクロショウジョウバエ区の適応放散のシナリオを描き出した.スペースの関係上,以下に分子系統学的研究の成果について論述する. クロショウジョウバエ区に属する種群についてミトコンドリアDNA(mtDNA)とアルコール脱水素酵素遺伝子(Adh)を解析し,得られた結果から分子系統樹を作成した.robusta種群は生殖器を含む外部形態の特徴から,okadai種亜群,robusta種亜群,およびlacertosa種亜群の3亜群に大別されるが,mtDNA分子系統樹からも同様な結果が得られた.Adh,mtDNAとも分子系統樹では,okadai種亜群のD.okadai,D.neokadai,D.ganiの3種は同一クラスターを形成し,これらがquadrisetata種群のクラスターと結びついた.さらにokadai種亜群とquadrisetata種群を含む高次クラスターはlacertosa種亜群と連結した.一方,D.sordidula,D.pseudosordidula,D.robustaはrobusta種亜群として一つのクラスターを形成するが,このクラスターはrobusta種群と姉妹種群の関係にあるmelanica種群と結びついた.この結果は,robusta種群はこれまで考えられていた単系統群ではなく,一方ではquadrisetata種群と,また一方ではmelanica種群と祖先を共有する多系統的な集まりであることを明示している.
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