哺乳動物各種の、白亜紀末から新生代初期にかけての適応放散の様子や分岐年代についてはなかなか研究が困難で、不明瞭な点が多かった。これを克服するには、DNA分子の塩基配列を調べ統計学的手法で系統関係を推定することである。したがって、食虫類のミトコンドリアDNAの塩基配列のデータは、哺乳動物の適応放散と系統分岐についての重要な手がかりを与えることになる。そこで、食虫類(モグラ、ヒミズ、スンクス)と翼手類(アブラコウモリ)のmtDNA遺伝子を解析して、それらの系統学的位置関係を解析した。 これらの分子系統学的研究(論文準備中)からは、(1)モグラとヒミズが有意に近縁であること、(2)同じ食虫類に分類されているスンクスの系統的位置関係は、モグラやヒミズとは違って、ヒトなどの霊長類により近く、不明瞭であること、(3)翼手類(アブラコウモリ)と齧歯類(マウス)と食虫類の系統関係も微妙であることがわかってきた。 得られたデータがまだ少ないので十分定量的な考察はできないが、ヒト(霊長類)、ヒミズ・モグラ(食虫類)、マウス(齧歯類)間の種分化のあり方、年代的傾向は、これだけのデータだけでも十分示していることが伺える。また、従来の分類学的見地をくつがえしそうな結果も得られるような可能性を示している。さらに、データを増やして、定量的検討が可能になるように発展させていきたい。
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