わが国に広く分布するニホンアカガエルという種の遺伝的構造を知り、種内分化の実態を明らかにすることが本研究の目的である。本研究では、わが国各地の多くの集団からニホンアカガエルを集め、これらの集団間で交雑実験を行うことによって、各集団間の繁殖隔離の程度を調べるとともに、アロザイム分析およびミトコンドリアDNAのRFLP解析によって、各集団の遺伝的構造を明らかにし、集団間の遺伝的遠近関係を定量的に推定することを試みた。まず、本州および九州の20集団の161匹のニホンアカを用いて101の組合せで集団間の交雑実験を行ったところ、これらの集団間には配偶子隔離や雑種致死による隔離はないが、東部、西部、北西部の3つのグループの間の雑種には雄が著しく多く、これら3つのグループは不完全ながら雑種雄不妊によって互いに繁殖的に隔離されていることがわかった。また、25集団の505匹について、25遺伝子座のアロザイム分析を行った結果、わが国のニホンアカは東西2つのグループに大別でき、本州北西部においていくつかの遺伝子座で東部からの遺伝子浸透がみられることがわかった。さらに16集団の78匹を用いて、ミトコンドリアDNAのRFLP解析を行ったところ、10のハプロタイプが観察され、これらは東部と西部の2つに大別され、東西間の塩基置換率は平均4.8%であった。集団間の塩基置換率をもとに作成した系統樹から、ニホンアカは東部と西部の2つに分化したのち、北西部の秋田集団において東部からの遺伝子浸透が起こったことが示唆された。交雑実験、アロザイム分析およびミトコンドリアDNAのRFLP解析の結果を総合的に判断して、現在のところ東西のグループはそれぞれ一関種族、広島種族とよび、北西部はcontact zoneとよぶのが妥当であろうと考えている。東西の両種族を分類学的にどのように位置付けるかは、種の問題と関連して、今後の課題である。
|