当該研究において以下のことを明らかにすることができた。 1)高山帯に隔離的に分布するナンジャモンジャゴケについては、日本およびボルネオ島の集団を調査した。その結果、集団内に遺伝的変異性が認めら得れこと、集団間の分化の程度は低いことが明らかとなった。このことは、有性生殖を行わない種においても、集団内の遺伝的多様性が認められることを示している一方、隔離的に分布する種においても、集団間分化がほとんど生じていない場合があることを意味する。 2)ナンジャモンジャゴケと比較するために、低地で隔離的に分布するほとんど有性生殖を行わない蘚苔類種からオオミズゴケ、イチョウウキゴケを調査した。オオミズゴケでは、集団間分化、集団内多様性ともに低く、一方ウキゴケでは高い値を示した。これはウキゴケが複数の隠蔽種から成り立っていることを示唆している。また有性生殖は行わないが、各地に広く分布するイチョウウキゴケにおいては、集団内分化、集団間分化ともにほとんど存在していない。これらの種では、胞子体を形成することが非常に稀であり、胞子によって集団間で遺伝子プールを共有することは考えにくい。集団間分化の程度が低く保たれているのは、島などによって固体が運ばれることによって、集団間の遺伝的交流が維持されているからと想定できる。同時に調査した、広く分布し旺盛に有性生殖をするケゼニゴケにおいては、集団内分化は高いが、集団間分化は低い結果が得られた。このことは有性生殖が集団内の多様性を維持するのに有効であり、また集団間分化を阻害する働きをもっていることを示している。
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