オーストラリア産のグロッソプテリス有組織化石は現在入手可能な材料として最良のものであるが、保存状態には不満が残った。また、非常に固い珪化化石であるため、作業に多大な時間がかかった。以上の制約にもかかわらず、徳に雌性生殖器官については、発生段階を追った復元がほぼ完成した。 独特の雌性生殖器官は大胞子の上面に位置する多数の胚珠で特徴づけられる。珠心とそこに形成される大配偶体及び卵の発達段階が胚珠の発達を経時適に追うための指標となった。大配偶体は自由核分裂の後形成され、ついで卵細胞を造卵器内に形成する。受粉以前の胚珠は縦におれ曲がった大胞子葉に包まれて保護されている。大胞子葉は受粉後種子が形成されるころになると左右に広がり、種子散布を容易にする。グロッソプテリスの胚珠最外層には網状に分枝した毛が観察されることがあったが、その発達段階、構造、機能は不明であった。本研究で、毛は大配偶体完成時までに胚珠下表皮層が浮き上がるようにして形成される網目状の多細胞構造であること受粉後に分解消失することがはっきりした。また、毛の間隙には花粉が高頻度で見られることから、毛が受粉機構にかかわる可能性が高くなった。今後グロッソプテリスの受粉機構解明に結び付けたい。 関連群との比較のために重要と思われる生殖器官の付着様式は、枝に付着した化石が得られず、今後の課題として残った。 並行して研究を行った、北海道産の白亜紀裸子植物及び被子植物については、今後も随時記載と比較を行う必要がある。本年度はナンヨウスギ科の1種について生殖器官、栄養器官を含めた全体像の復元をしたこと、被子植物の雌性生殖器官を新たに記載したこと、マツ科の材数種を記載したことが主な成果である。
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