研究概要 |
本研究は,西太平洋のサンゴ礁周辺などの海底洞窟に生息する隠生動物群(特に軟体動物群)の多様性とその独特な適応戦略を明らかにすることを目的として始められている。調査地域は西太平洋の全域で,日本列島からフィリピン海周辺の島々やミクロネシア,ポリネシアに及ぶが,日本国内の調査と採集資料の室内研究をこの研究費で行っている. 平成8年度には,ダイバーの協力を得て,新たに和歌山県串本町の紀伊大島の海底洞窟資料と北海道稚内地方の比較資料を得た.これらの資料とともに,これまでに得ている琉球各地,南大東島,小笠原諸島,フィリピン,パラオ,グアム,フィージ-,トンガ,タヒチなどの資料をソーティングし,観察を行った.その結果,地域ごとの二枚貝群の構成がほぼ明らかとなった.これまでに全域で同定された洞窟性の二枚貝類は未記載のものを含めて約100種に達する.また,遠隔の地域間でかなり多くの共通種が存在すること,先に琉球で報告した洞窟二枚貝類の独特な適応戦略(矮小化,プロジェネシスによる幼形進化,K戦略,深海種との類似,異常に高い保育種の比率)がきわめて普遍的であることが確認された.多くの状況証拠から考えて,このような特徴が生じる原因が貧栄養にあることはまず疑いない. 海底洞窟,通常の深海底や大洋中の孤島の二枚貝群は一般に貧栄養により著しく矮小化した種が多い.また,世界的に矮小化した化石二枚貝群が知られるいくつかの地質時代があるので,海生動物群の大量絶滅の直接の原因として「貧栄養の仮説」を検証するべく化石記録の調査をも行っている.
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